佐藤優『いま生きる階級論』(新潮社)2015/06/30
- 新潮講座「一から分かる『資本論』第3期」(2014年10月〜12月)の講義を活字化し収録。
- 宇野弘蔵の「資本論」を取り扱った第1期講座についても、『いま生きる資本論』として刊行されている。
- さらに、本論考を発展したものが、『官僚階級論』として書き下ろしとなり、刊行されている。
引用・参考文献
最近、格差に関する議論がブームになっている。その背景には、フランスの経済学者トマ・ピケティ氏が引き起こした旋風が関係している。 去年(2014年)12月に邦訳が刊行されたピケティ氏の『21世紀の資本』(みすず書房)は、日本でも13万部を超えるベストセラーになった。
この超国家的な徴税機関を視野に入れるという点を除けば、ピケティ氏の考え方は、構造的貧困を再分配によって解決するという昔からある修正資本主義の思想だ。日本では、河上肇(1879~1946年)の『貧乏物語』(1917年)がそれにあたる。
2014年夏に『いま生きる「資本論」』という本を出しました。これはこの新潮講座での講義を基にして、カール・マルクスの『資本論』の全体像を大掴みに解説したものです。
『資本論』は名のみ高く、読み通した人がなかなかいない書物ですから、解説書とか入門書はたくさん出ている。けれども大抵の本は、全三巻(岩波文庫版で九分冊)ある『資本論』の最初の方しか解説していないんですね。大体、第一巻の説明をして事足れりとしている。では全三巻を読むとどんなことが見えてくるのか、自分なりの『資本論』の見取り図というか、あの「革命の書」みたいに勘違いもされている大著の取扱説明書を書いてみようとしたのです。
さて、今回の講義は、『いま生きる「資本論」』でも重要な登場人物であった経済学者宇野弘蔵の『経済学方法論』を――これも大部の本ですから――拾い読みをしながら、進めたいと思います。
最近、不思議な本を読んだんですよ。PHPから出ている山口真由さんの『東大首席弁護士が教える超速「7回読み」勉強法』。ここだけの話ですが、彼女はなかなか壊れています(会場笑)。
例えば宇野弘蔵に『経済原論』という著作があるのですが、そんな書名にもかかわらず、これをいきなり七回読んでもなかなかわかるものではないんです。なぜか? 短いからこそ、わかりにくい本なんですね。本というのは、短すぎると理解するのに時間がかかる、もっと長く書いてくれりゃよかった、というケースはよくあるんです。
じゃあ、予習復習用に適している本を一冊挙げておきましょうか。せりか書房から出ている熊野純彦さんの『マルクス資本論の思考』はいいね。彼は東京大学の哲学の先生で、レヴィナスやヘーゲルなども研究していますが、マルクス主義哲学者で有名な廣松渉さんの後継者です。私はこの人の哲学に関する著作には批判的なんですが、この本はよくできています。
実はマルクスの『資本論』というのは、時代が違えば、著作権法違反で訴えられる可能性がある書物です。なぜかと言うと、デイヴィッド・リカードというイギリスの古典派経済学を集大成した人物がいますが、彼の主著である『経済学および課税の原理』のプロットからマルクスは多くのものをパクッているわけです。ところが、マルクスがパクらなかったポイントがある。それは〈税金〉なんです。
宇野が『資本論』だけ読んでいたら気づかなかったかもしれないけれども、その頃ちょうどレーニンの『帝国主義論』が刊行されたんです。原題を正確には『資本主義の最高段階としての帝国主義』という本ですが、この『帝国主義論』を読んで、宇野はハッとした。マルクスの方法とレーニンの方法が違うぞ、と気づいた。レーニンの『帝国主義論』では、国家の役割がすごく強くなっている。それに対して『資本論』では、全く国家の役割について論じていない。
帝国主義―資本主義の最高の段階としての (岩波文庫 白 134-1)
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宇野さんの考え方、論理を重視して引き継いでいる方には、例えば國學院大学の名誉教授の伊藤誠さんがいます。それから、宇野経済学を歴史的に整理していく歴史重視派には、亡くなった筑波大学の降旗節雄さんがいました。それから、私が対談本『はじめてのマルクス』を一緒に作った鎌倉孝夫さんですよね。
鎌倉さんには、私が高校の時に勉強会で『資本論』の手引きをしてもらったのですが、マルクスだけじゃなくて、彼は非常にカントを読み込んでいるんです。カントの『純粋理性批判』を読んで、カントのフレームをいかに『資本論』とくっつけるか、そこを一生懸命やっています。
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最終的にわれわれの目標は何かというと、いま生きているこの日本の中で、われわれはどういう場所にいるかを知ることです。その意味でも、片山杜秀さんの『未完のファシズム』は非常に優れた面白い本でした。日本というのは、軍だったら軍がすべてを統制しているし、外交は外務省、予算は財務省が押さえている。徹底したタテ割りで、しかもそのタテの数は増え続けながら、みんなで天皇を輔弼するというシステムになっていたと。
マラパルテには『壊れたヨーロッパ』という、彼が戦時特派員として見たロシア戦線を描いた本もあって、これも面白い。
ともあれ、『クーデターの技術』は政治論的に重要な本、ただし取扱注意の本です。会社で経営権を乗っ取るとか考えている人にも応用は可能だからね(会場笑)。このクーデターの技術は、ありとあらゆる場所において使えます。
問の五番目にある『帝国の構造』は柄谷行人さんの最新刊です。この本は、柄谷さんの二一世紀に入ってからの一連の著作、『トランスクリティーク』『世界共和国へ』『世界史の構造』『哲学の起源』から繋がっていますが、これまでまだ描き切れていなかった問題を扱っています。