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佐藤優『イスラエルとユダヤ人に関するノート』(ミルトス)2015/02/16

  • イスラエル・ユダヤ専門出版社であるミルトスが、隔月で発売している雑誌『みるとす』に連載の「イスラエル並びにユダヤ人に関するノート」の第1回(2007年10月号94号)〜第33回(2014年6月号134号)を再編集し、収録している。
  • ユダヤの視点から中東情勢を批評しており、他の論壇誌への寄稿と比べると、専門的な内容となっている。
  • ユダヤ・イスラエルの知識を深める為の著作物も多数紹介されている。
イスラエルとユダヤ人に関するノート

イスラエルとユダヤ人に関するノート

 


参考文献

ちなみに筆者は、ノンキャリア職員であるが、一年間(正確に言うと一年二ヶ月)、英国で研修した。ソ連は日本を敵視し、モスクワ国立大学に直接留学しても、ロシア語の基礎力が身につかないからだ。かつて、笑い話のような事実を『自壊する帝国』に書いたので引用しておく。

自壊する帝国 (新潮文庫)

自壊する帝国 (新潮文庫)

 
自壊する帝国

自壊する帝国

 
自壊する帝国(新潮文庫)

自壊する帝国(新潮文庫)

 

 

たとえば、筆者が主任分析官として国際情報局分析第一課に勤務していたときの国際情報局長であった孫崎享氏(その後、イラン大使、防衛大学校教授を歴任)は、イランについてこう記す。

日米同盟の正体~迷走する安全保障 (講談社現代新書)

日米同盟の正体~迷走する安全保障 (講談社現代新書)

 

 

ここで展開している孫崎氏の論理は奇妙だ。ソ連外交政策を分析する際に、マルクスエンゲルスの『共産党宣言』やレーニンの『帝国主義論』を引用し、その行動を正当化することには無理がある。

マルクス・エンゲルス 共産党宣言 (岩波文庫)

マルクス・エンゲルス 共産党宣言 (岩波文庫)

 
帝国主義―資本主義の最高の段階としての (岩波文庫 白 134-1)

帝国主義―資本主義の最高の段階としての (岩波文庫 白 134-1)

 

 

孫崎享氏は、文筆家としても有能で、『日本外交 現場からの証言』(中公新書、1993年)で山本七平賞を受賞している。しかし、孫崎氏のイラン観は日本の国益に合致しないと筆者は考える。 

日本外交:現場からの証言

日本外交:現場からの証言

 

 

外務省でインテリジェンス・チームを率いたときも、ヨムキプール戦争の事例研究で情報収集技法、評価についてさまざまな議論をした。しかし、当時は、日本語で読むことができるよい書籍がなかった。今般、この状態が抜本的に改善されることになった。戦士研究科のアブラハム・ラビノビッチ氏による名著『ヨムキプール戦争全史』の日本語版が刊行されたからだ。翻訳は、駐日イスラエル大使館のチーフインフォメーションオフィサーを長くつとめられた滝川義人氏だ。

イスラエルがもつ危機意識を理解するためにも『ヨムキプール戦争全史』を是非読むことをお勧めする。

ヨムキプール戦争全史

ヨムキプール戦争全史

 

 

筆者も外交官時代に『ユダヤ読解のキーワード』(新潮選書)をはじめとする滝がわしの著作から多くを学ぶんだ。滝川市イスラエル研究、ユダヤ人研究の第一人者だ。翻訳も正確で読みやすい。

ユダヤ解読のキーワード (新潮選書)

ユダヤ解読のキーワード (新潮選書)

 

 

2002年5月に私が東京地方検察庁特別そうサブに背任容疑で逮捕されたのも、2000年4月にテルアビブで行われた[東と西の間のロシア]というテーマの国際学会に、日本の学者や外務省職員を派遣する費用を外務省関係の国際機関[支援委員会]から支出したことが刑事犯罪とされたからです。この経緯については、拙著『国家の罠ーー外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮文庫、2007年)に書いたのでここではその内容を繰り返すことはしません。

国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて (新潮文庫)

国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて (新潮文庫)

 
国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて

国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて

 

 

2010年2月に筆者が尊敬する外交ジャーナリストの手嶋龍一氏(元NHKワシントン支局長)が『スギハラ・ダラー』(新潮社、2010年)を上梓した。1940年夏にリトアニア共和国の首都(当時)カウナスの日本領事館で領事代理をつとめていた杉原千畝が発行した「命のビザ」で、日本を経由し、米国に渡ったアンドレイが、先物市場の大立者になるという話を軸に物語が展開される。その那珂で9.11事件を背後で操る勢力や、2008年のリーマン・ショックの「謎解き」などがでてくる興味深いインテリジェンス小説だ。

スギハラ・ダラー

スギハラ・ダラー

 
ウルトラ・ダラー (新潮文庫)

ウルトラ・ダラー (新潮文庫)

 
ウルトラ・ダラー

ウルトラ・ダラー

 

 

 1936年末、外務省は、杉原がロシア語能力を活かし、さらに活躍することを期待して、在ソ連大使館に二等通訳官として赴任することを命じた。ところが、ソ連側は杉原に入国許可を出さず、日本側を「国際慣例上先例がない」と激昂させ、このあと三ヶ月近くも厳しい交渉が続いたのだった。この問題については、杉原の夫人幸子氏の著作『【新版】六千人の命のビザ』でも言及されているが、幸子夫人も「杉原はロシア通だからと、ソ連のほうでも神経を尖らせていたのでしょう」と記すのみであり、詳しい事情はご存じなかったようである。

新版 六千人の命のビザ

新版 六千人の命のビザ

 

 

旧約聖書進学の授業でユダヤ人の歴史についてQ君も勉強したことと思いますが、念のために『世界大百科事典』(平凡社)の記述(関谷定夫先生執筆)を引用しておきます。

世界大百科事典〈1972〉 (1972年)

世界大百科事典〈1972〉 (1972年)

 

 

ここでいう近代とは、合理主義、生命至上主義、個人主義によって構築されたシステムです。こういう欧米によって構築された近代が限界にいたったから世界大戦が必然になったという見方が当時、日本の意急の学者たちによって展開されました。そこでは西田幾多郎の影響を受けた京都学派の哲学者たちが主導的な役割を果たしました。

ちなみに同志社大学文学部神学科(神学部の前身)の魚木忠一教授の主著『日本基督教の精神的伝統』(基督教思想叢書刊行會、1941年)も、第三者的に見れば、この系譜に属します。

日本基督教の精神的伝統 (アジア学叢書)

日本基督教の精神的伝統 (アジア学叢書)

 

 

いずれにせよ、特攻攻撃は生命至上主義、個人主義を超克しなくてはできません。その意味で、特攻隊は近代を実践において超克したのです。同志社大学神学部の先輩である財津正彌先生の『少年兵の青春記録 生きるも死ぬも』(ミルトス、2009年)を読むと、Q君にも私がここでいったことの意味を追体験することができます。

生きるも死ぬも―少年兵の青春記録

生きるも死ぬも―少年兵の青春記録

 

  

(以下編集中)