佐藤優『危機を克服する教養 知の実戦講義「歴史とは何か」』(角川書店) 2015/01/30
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2013年1月〜3月にかけて、朝日カルチャーセンター新宿教室にて行われた連続講義「歴史とは何か」(全4回)の講義録を大幅に加筆修正し、再構成した内容を収録
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続編に『危機を覆す情報分析 知の実戦講義「インテリジェンスとは何か」』(2016年)
引用・参考文献
本書の内容を踏まえ、より先に進みたいと感じた人は、拙著『宗教改革の物語 近代、民族、国家の起源』(角川書店、2014年)、『いま生きる「資本論」』(新潮社、2014年)を手にとってみてほしい。
宗教改革の物語 近代、民族、国家の起源 (ノンフィクション単行本)
- 作者: 佐藤優
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
- 発売日: 2014/04/25
- メディア: 単行本
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田辺元や現代の神学的なことをわかりやすく書いているのは、私が上梓しました『同志社大学神学部』です。神学部時代の回想というかたちをとっていますが、実際に目的としているのは、現代神学への入門です。
トレルチの『歴史主義とその諸問題』は、いい英訳が出ています。
それから田辺元の『歴史的現実』。
これは1940年に岩波書店から出て大ベストセラーになりました。特攻隊の青年たち、学徒動員の人たちは、この『歴史的現実』をポケットの中に入れて突っ込んでいった。
『歴史的現実』は、2001年にこぶし書房という、皆さんがあまりきいたことがないであろう出版社から出版されています。革マル派(日本革命的共同主義者同盟革命的マルクス主義派)系の出版社です。
ドイツの学徒動員の学生たちも同じような本を持って戦場に出向きました。ただし厚さは『歴史的現実の数倍』ありますが。それは、マルティン・ハイデッガーの『存在と時間』です。
1944年、昭和19年になって「懺悔道」について講演をします。すでにその時点で戦争にどうして負けたのか、田辺元は真剣に考えるわけです。そして、よく考えてみたら私は間違えていたという、『懺悔道としての哲学』という本を戦後に出すのですが、これまた大ベストセラーとなりました。
戦時体制に協力した本を、岩波は復刻しない傾向が強い。たとえば京都学派の高山岩男の『世界史の哲学』も、1942年に岩波書店から出ていたのですが、復刻していません。
この田辺元の理論を使いながら、現代思想の世界で影響力を持っているのが、中沢新一さんです。中沢新一さんは、初期から田辺理論の影響を受けていたと思うのですが、それを表に出すようになったのは比較的最近です。集英社から『フィロソフィア・ヤポニカ』という本を出し、ゲーデルと田辺元の関係などについても書かれています。
箱根の強羅にはソ連大使館がありました。このソ連大使館をモデルにしたのが、井上ひさしさんの『箱根強羅ホテル』という戯曲です。
それから歴史について、現代史について知るときに、絶対に避けて通れないのが、ドイツ語読みでゲオルク・ルカート、ハンガリー語読みだとジェルジ・ルカーチの『歴史と階級意識』です。
ちなみに、最近長崎浩さんが作品社から『革命の哲学』という本を出しました。ルカーチについても面白いことを書かれています。この人は医療倫理などで活躍していますが、元々は共産主義者同盟ブントの活動家です。思想家として優れていると思います。
福本和夫は戦前の地下共産党の指導者です。
福本和夫自身はルカーチの『歴史的階級意識の倫理』と、レーニンの『なにをなすべきか』、その二つの本をひっさげて、ドイツ留学からは日本に戻ってきました。
この前衛思想をずっと維持しているのが、読売新聞の渡邉恒夫さんです。彼の『反ポピュリズム論』、これはなかなかいい本です。福本和夫の考え方と、まったく構成はいっしょです。
魚住昭さんが『渡邉恒夫 メディアと権力』で的確に指摘しています。 前衛思想組織を引っ張っていく上では、非常にいい。一言で言うと、頭脳の部分が我々だ、後はつべこべ言わずに従え!
宇野経済学の原理論の構成は、ヒックスの『価値と資本』などと構成が非常に近く、市場の中での近郊、動学的均衡モデルになる。新古典派の近代経済学と非常に近いモデルです。そうなるのは、実は物象化を宇野は知らず知らずのうちに身に付けていたからだと。「推論」と言っていますが、非常に優れた指摘です。
価値と資本〈上〉―経済理論の若干の基本原理に関する研究 (岩波文庫)
- 作者: J.R.ヒックス,John Richard Hicks,安井琢磨,熊谷尚夫
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1995/02/16
- メディア: 文庫
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価値と資本〈下〉―経済理論の若干の基本原理に関する研究 (岩波文庫)
- 作者: J.R.ヒックス,J.R. Hicks,安井琢磨,熊谷尚夫
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1995/03/16
- メディア: 文庫
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さらに、ユルゲン・ハーバーマスの『晩期資本主義における正当化の諸問題』。これは危機を扱った基本書中の基本書です。
晩期資本主義における正統化の諸問題 (1979年) (岩波現代選書〈29〉)
- 作者: J.ハバーマス,細谷貞雄
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1979/06
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嫌いだ、嫌いだ、ハーバーマスはろくでもない奴だと言いながら、意外とその影響を受けているのが柄谷行人さんです。柄谷さんの『世界史の構造』や『世界共和制へ』を理解知るためにも、このハーバーマスの「晩期資本主義」論は非常にいい。
最後に、今日はこぶし書房の田辺元の『歴史的現実』ともう一冊もってきました。カール・バルトの『教会教義学 神の言葉I/1 序説/教義学の基準としての神の言葉』です。これは極めて難解ですが、面白い。ただ、むやみやたらとは薦められない。1万260円。
ところが、ギリシャ語のアルファベットを読めるようにすることと、簡単なギリシャ語の言葉を覚えることだったら、『CDエクスプレス現代ギリシャ語』や『CDエクスプレス古典ギリシャ語』があります。
この前、佐高信さんと会った際に、『戦後史の正体』の話になりました。佐高さんは辛口評論家ですが、本読みです。「孫崎のあの本は粗いしひどなあ」と。
副島さんは、『陰謀論とは何か 権力者共同謀議のすべて』という本を出しています。副島さんは、陰謀論というと不正確だから、権力者共同謀議と言い換えるべきだと主張します。
ところが、キリスト教神学には、そういう狡さ、危機を切り抜ける能力がものすごくあります。重要なのがシュライエルマッハ—です。現在手に入る本は少ないです。最近では深井智朗さんの新訳で『宗教について』(『宗教論』)が出ました。
古本屋で時たま佐野勝也訳の『宗教論』(岩波文庫)、筑摩から出ている高橋英夫訳のソフトカバーが出ています。いずれも名訳なので、見つけたら買っておくことをお勧めします。
あるいは『独白』という、岩波から出ている者。それから『神学通論』という本が、教分館から6年前に出てました。これくらいしか手に入りません。
学文社から出ているエリ・ケドゥーリーの『ナショナリズム』という本では、非常に詳細にシュライエルマッハーについて書かれています。
- 作者: エリケドゥーリー,Elie Kedourie,小林正之,奥村大作,栄田卓弘
- 出版社/メーカー: 学文社
- 発売日: 2003/10
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小林敏明さんが『西田幾多郎の憂鬱』という本を岩波書店から10年ほど前に出しました。非常にいい本です。西田幾多郎の持っていた蔵書などを実証的に確認しています。
カール・バルトと西田幾多郎は、発想において非常に近いところがあります。気がついたのは九州大学の先生だった滝沢克己です。滝沢克己の『カール・バルト研究』や『西田哲学の根本問題』は、この問題を扱った優れた哲学書です。
カール・バルトが1919年に発表した『ローマ書』では、第一次世界大戦後、その破滅の中での危機という感覚でしたが、新たな戦争が起きてくるという危機はありませんでした。
ゲーテの『ファウスト』は有名ですが、読まれていない作品の一つですね。もともドイツ人やイギリス人、あるいはロシア人で知識人といわれる人たちは『ファウスト』を読んでいます。『ファウスト』は知識人としての入場券なのです。
(以下編集中)
『巨匠とマルガリータ』 は、悪魔が1920年代のモスクワに現れ、かつて自分はイエス・キリストが死ぬところを見たと言い張るという話です。
あるいはギボンの『ローマ帝国衰亡史』、それから哲学系だったらフッサールの『論理学研究』、こういうものです。これをアンカーにする。
ラテン語に関しても、『ニューエクスプレス』からラテン語が出ています。最初の文字の読み方、これは文字は一緒ですから、ギリシャ語と比べればすごく簡単です。
『経済学批判』や『純粋理性批判』など、いろいろなものに非難という言葉がついていますが、日本語の批判の否定的なニュアンスは、そこにはありません。
- 作者: カール・マルクス,武田隆夫,遠藤湘吉,大内力,加藤俊彦
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1956/05/25
- メディア: 文庫
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- 作者: カント,Immanuel Kant,篠田英雄
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1961/08/25
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- 作者: カント,Immanuel Kant,篠田英雄
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1962/07/16
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法演とは、この話をつくった『碧巌録』の評唱をつくった圜悟の師匠である五粗法演のことです。
- 作者: 入矢義高,末木文美士,溝口雄三,伊藤文生
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1992/06/16
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「時間論」に関しては、最近で中島義道さんが『時間論』といういい本を書いています。
ところがアウグスティヌスの『告白』などを読むのは、世界像が違いますからすごく大変です。田辺はうまくまとめています。
アウグス ティヌス 告白 (下) (岩波文庫 青 805-2)
- 作者: アウグスティヌス,服部英次郎
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1976/12/16
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種族という言葉を使うと、ダーウィンの『種の起源』やナチスドイツの人種主義の連関で考えてしまうので、種族という言葉を落としてしまいましょう。
もう岩波書店からは絶版となっており、神保町の古本屋を歩くと50円ほどで出ています。
彼は「菅季治のこと」というエッセイを書いています。『務台理作著作集』の第6巻に収録されています。菅季治とは、東京文理科大で彼が教えた学生です。務台と同じようなキャリアを歩んだ優秀な学生でした。