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佐藤優『危機を克服する教養 知の実戦講義「歴史とは何か」』(角川書店) 2015/01/30

引用・参考文献

 マルクスが『資本論』で喝破したように、株は擬制(架空)資本に過ぎない。

資本論 1 (岩波文庫 白 125-1)

資本論 1 (岩波文庫 白 125-1)

 

 

 本書の内容を踏まえ、より先に進みたいと感じた人は、拙著『宗教改革の物語 近代、民族、国家の起源』(角川書店、2014年)、『いま生きる「資本論」』(新潮社、2014年)を手にとってみてほしい。

いま生きる「資本論」

いま生きる「資本論」

 

 

 田辺元や現代の神学的なことをわかりやすく書いているのは、私が上梓しました『同志社大学神学部』です。神学部時代の回想というかたちをとっていますが、実際に目的としているのは、現代神学への入門です。

同志社大学神学部

同志社大学神学部

 

 

 トレルチの『歴史主義とその諸問題』は、いい英訳が出ています。

トレルチ著作集〈4〉歴史主義とその諸問題 上(1980年)

トレルチ著作集〈4〉歴史主義とその諸問題 上(1980年)

 

 

 それから田辺元の『歴史的現実』。
 これは1940年に岩波書店から出て大ベストセラーになりました。特攻隊の青年たち、学徒動員の人たちは、この『歴史的現実』をポケットの中に入れて突っ込んでいった。

 『歴史的現実』は、2001年にこぶし書房という、皆さんがあまりきいたことがないであろう出版社から出版されています。革マル派(日本革命的共同主義者同盟革命的マルクス主義派)系の出版社です。

歴史的現実 (こぶし文庫―戦後日本思想の原点)

歴史的現実 (こぶし文庫―戦後日本思想の原点)

 

 

 ドイツの学徒動員の学生たちも同じような本を持って戦場に出向きました。ただし厚さは『歴史的現実の数倍』ありますが。それは、マルティン・ハイデッガーの『存在と時間』です。

存在と時間(全4冊セット) (岩波文庫)

存在と時間(全4冊セット) (岩波文庫)

 

 

 1944年、昭和19年になって「懺悔道」について講演をします。すでにその時点で戦争にどうして負けたのか、田辺元は真剣に考えるわけです。そして、よく考えてみたら私は間違えていたという、『懺悔道としての哲学』という本を戦後に出すのですが、これまた大ベストセラーとなりました。 

懺悔道としての哲学――田辺元哲学選II (岩波文庫)

懺悔道としての哲学――田辺元哲学選II (岩波文庫)

 

 

  戦時体制に協力した本を、岩波は復刻しない傾向が強い。たとえば京都学派の高山岩男の『世界史の哲学』も、1942年に岩波書店から出ていたのですが、復刻していません。

世界史の哲学―戦後日本思想の原点 (こぶし文庫)

世界史の哲学―戦後日本思想の原点 (こぶし文庫)

 

 

 オットー・ケルロイター・ミュンヘン大教授の『ナチス・ドイツ憲法論』という本も出ていましたが、復刻されていません。 

ナチス・ドイツ憲法論 (1939年)

ナチス・ドイツ憲法論 (1939年)

 

 

  田辺元は『哲学入門』という、すごくいい本を戦後に書いています。これは原子力の問題なども扱っています。 

 

 この田辺元の理論を使いながら、現代思想の世界で影響力を持っているのが、中沢新一さんです。中沢新一さんは、初期から田辺理論の影響を受けていたと思うのですが、それを表に出すようになったのは比較的最近です。集英社から『フィロソフィア・ヤポニカ』という本を出し、ゲーデル田辺元の関係などについても書かれています。

フィロソフィア・ヤポニカ (講談社学術文庫)

フィロソフィア・ヤポニカ (講談社学術文庫)

 
フィロソフィア・ヤポニカ

フィロソフィア・ヤポニカ

 

 

 箱根の強羅にはソ連大使館がありました。このソ連大使館をモデルにしたのが、井上ひさしさんの『箱根強羅ホテル』という戯曲です。

箱根強羅ホテル

箱根強羅ホテル

 

 

 それから歴史について、現代史について知るときに、絶対に避けて通れないのが、ドイツ語読みでゲオルク・ルカート、ハンガリー語読みだとジェルジ・ルカーチの『歴史と階級意識』です。

歴史と階級意識

歴史と階級意識

 

 

  ちなみに、最近長崎浩さんが作品社から『革命の哲学』という本を出しました。ルカーチについても面白いことを書かれています。この人は医療倫理などで活躍していますが、元々は共産主義者同盟ブントの活動家です。思想家として優れていると思います。

革命の哲学――1968叛乱への胎動

革命の哲学――1968叛乱への胎動

 

 

 福本和夫は戦前の地下共産党の指導者です。

福本和夫自身はルカーチの『歴史的階級意識の倫理』と、レーニンの『なにをなすべきか』、その二つの本をひっさげて、ドイツ留学からは日本に戻ってきました。

なにをなすべきか?―新訳 (国民文庫 (110))

なにをなすべきか?―新訳 (国民文庫 (110))

 

 

 この前衛思想をずっと維持しているのが、読売新聞の渡邉恒夫さんです。彼の『反ポピュリズム論』、これはなかなかいい本です。福本和夫の考え方と、まったく構成はいっしょです。

反ポピュリズム論 (新潮新書)

反ポピュリズム論 (新潮新書)

 
反ポピュリズム論(新潮新書)

反ポピュリズム論(新潮新書)

 

 

 魚住昭さんが『渡邉恒夫 メディアと権力』で的確に指摘しています。 前衛思想組織を引っ張っていく上では、非常にいい。一言で言うと、頭脳の部分が我々だ、後はつべこべ言わずに従え!

渡邉恒雄 メディアと権力 (講談社文庫)

渡邉恒雄 メディアと権力 (講談社文庫)

 
渡邉恒雄 メディアと権力

渡邉恒雄 メディアと権力

 

 

 宇野経済学の原理論の構成は、ヒックスの『価値と資本』などと構成が非常に近く、市場の中での近郊、動学的均衡モデルになる。新古典派近代経済学と非常に近いモデルです。そうなるのは、実は物象化を宇野は知らず知らずのうちに身に付けていたからだと。「推論」と言っていますが、非常に優れた指摘です。

価値と資本〈上〉―経済理論の若干の基本原理に関する研究 (岩波文庫)

価値と資本〈上〉―経済理論の若干の基本原理に関する研究 (岩波文庫)

 
価値と資本〈下〉―経済理論の若干の基本原理に関する研究 (岩波文庫)

価値と資本〈下〉―経済理論の若干の基本原理に関する研究 (岩波文庫)

 

 

 さらに、ユルゲン・ハーバーマスの『晩期資本主義における正当化の諸問題』。これは危機を扱った基本書中の基本書です。 

晩期資本主義における正統化の諸問題 (1979年) (岩波現代選書〈29〉)

晩期資本主義における正統化の諸問題 (1979年) (岩波現代選書〈29〉)

 

 

 嫌いだ、嫌いだ、ハーバーマスはろくでもない奴だと言いながら、意外とその影響を受けているのが柄谷行人さんです。柄谷さんの『世界史の構造』や『世界共和制へ』を理解知るためにも、このハーバーマスの「晩期資本主義」論は非常にいい。 

世界共和国へ―資本=ネーション=国家を超えて (岩波新書)

世界共和国へ―資本=ネーション=国家を超えて (岩波新書)

 
世界史の構造 (岩波現代文庫)

世界史の構造 (岩波現代文庫)

 
世界史の構造 (岩波現代文庫 文芸 323)

世界史の構造 (岩波現代文庫 文芸 323)

 

 

 最後に、今日はこぶし書房の田辺元の『歴史的現実』ともう一冊もってきました。カール・バルトの『教会教義学 神の言葉I/1 序説/教義学の基準としての神の言葉』です。これは極めて難解ですが、面白い。ただ、むやみやたらとは薦められない。1万260円。

教会教義学 (〔第1巻第1分冊第1部〕)
 

 

  ところが、ギリシャ語のアルファベットを読めるようにすることと、簡単なギリシャ語の言葉を覚えることだったら、『CDエクスプレス現代ギリシャ語』や『CDエクスプレス古典ギリシャ語』があります。

CDエクスプレス 古典ギリシア語

CDエクスプレス 古典ギリシア語

 
CDエクスプレス 現代ギリシア語 (<CD+テキスト>)

CDエクスプレス 現代ギリシア語 (<CD+テキスト>)

 

 

 この前、佐高信さんと会った際に、『戦後史の正体』の話になりました。佐高さんは辛口評論家ですが、本読みです。「孫崎のあの本は粗いしひどなあ」と。 

戦後史の正体 (「戦後再発見」双書)

戦後史の正体 (「戦後再発見」双書)

 

 

  副島さんは、『陰謀論とは何か 権力者共同謀議のすべて』という本を出しています。副島さんは、陰謀論というと不正確だから、権力者共同謀議と言い換えるべきだと主張します。

陰謀論とは何か (幻冬舎新書)

陰謀論とは何か (幻冬舎新書)

 

 

 ところが、キリスト教神学には、そういう狡さ、危機を切り抜ける能力がものすごくあります。重要なのがシュライエルマッハ—です。現在手に入る本は少ないです。最近では深井智朗さんの新訳で『宗教について』(『宗教論』)が出ました。

宗教について: 宗教を侮蔑する教養人のための講話

宗教について: 宗教を侮蔑する教養人のための講話

 

 

 古本屋で時たま佐野勝也訳の『宗教論』(岩波文庫)、筑摩から出ている高橋英夫訳のソフトカバーが出ています。いずれも名訳なので、見つけたら買っておくことをお勧めします。 

宗教論―宗教を軽んずる教養人への講話 (筑摩叢書)

宗教論―宗教を軽んずる教養人への講話 (筑摩叢書)

 
宗教論 (岩波文庫 青 628-1)

宗教論 (岩波文庫 青 628-1)

 

 

 あるいは『独白』という、岩波から出ている者。それから『神学通論』という本が、教分館から6年前に出てました。これくらいしか手に入りません。

独白 (岩波文庫)

独白 (岩波文庫)

 
神学通論―1811年/1830年

神学通論―1811年/1830年

 

 

 学文社から出ているエリ・ケドゥーリーの『ナショナリズム』という本では、非常に詳細にシュライエルマッハーについて書かれています。

ナショナリズム

ナショナリズム

 
ナショナリズム

ナショナリズム

 

 

  小林敏明さんが『西田幾多郎の憂鬱』という本を岩波書店から10年ほど前に出しました。非常にいい本です。西田幾多郎の持っていた蔵書などを実証的に確認しています。

西田幾多郎の憂鬱 (岩波現代文庫)

西田幾多郎の憂鬱 (岩波現代文庫)

 
西田幾多郎の憂鬱

西田幾多郎の憂鬱

 

 

  カール・バルト西田幾多郎は、発想において非常に近いところがあります。気がついたのは九州大学の先生だった滝沢克己です。滝沢克己の『カール・バルト研究』や『西田哲学の根本問題』は、この問題を扱った優れた哲学書です。

西田哲学の根本問題 (こぶし文庫―戦後日本思想の原点)

西田哲学の根本問題 (こぶし文庫―戦後日本思想の原点)

 
カール・バルト研究 (1972年)

カール・バルト研究 (1972年)

 

 

 カール・バルトが1919年に発表した『ローマ書』では、第一次世界大戦後、その破滅の中での危機という感覚でしたが、新たな戦争が起きてくるという危機はありませんでした。 

ローマ書講解〈上〉 (平凡社ライブラリー)

ローマ書講解〈上〉 (平凡社ライブラリー)

 
ローマ書講解 (下) (平凡社ライブラリー (401))

ローマ書講解 (下) (平凡社ライブラリー (401))

 
ローマ書講解 (平凡社ライブラリー)

ローマ書講解 (平凡社ライブラリー)

 

 

 ゲーテの『ファウスト』は有名ですが、読まれていない作品の一つですね。もともドイツ人やイギリス人、あるいはロシア人で知識人といわれる人たちは『ファウスト』を読んでいます。『ファウスト』は知識人としての入場券なのです。

ファウスト〈1〉 (新潮文庫)

ファウスト〈1〉 (新潮文庫)

 
ファウスト〈2〉 (新潮文庫)

ファウスト〈2〉 (新潮文庫)

 

 (以下編集中)

ダンテの『神曲』を下敷きにしながら、『ファウスト』は書かれています。 

神曲 上 (岩波文庫 赤 701-1)

神曲 上 (岩波文庫 赤 701-1)

 
神曲 中 (岩波文庫 赤 701-2)

神曲 中 (岩波文庫 赤 701-2)

 
神曲 下 (岩波文庫 赤 701-3)

神曲 下 (岩波文庫 赤 701-3)

 

 

巨匠とマルガリータ』 は、悪魔が1920年代のモスクワに現れ、かつて自分はイエス・キリストが死ぬところを見たと言い張るという話です。

 

 『太平記』もいいし、『源氏物語』もいいと思います。

太平記(四) (岩波文庫)

太平記(四) (岩波文庫)

 
太平記(一) (岩波文庫)

太平記(一) (岩波文庫)

 
太平記(三) (岩波文庫)

太平記(三) (岩波文庫)

 
太平記(二) (岩波文庫)

太平記(二) (岩波文庫)

 

 

源氏物語 (角川ソフィア文庫―ビギナーズ・クラシックス)

源氏物語 (角川ソフィア文庫―ビギナーズ・クラシックス)

 

 

あるいはギボンの『ローマ帝国衰亡史』、それから哲学系だったらフッサールの『論理学研究』、こういうものです。これをアンカーにする。 

ローマ帝国衰亡史 全10巻セット (ちくま学芸文庫)

ローマ帝国衰亡史 全10巻セット (ちくま学芸文庫)

 

 

 

論理学研究 1【新装版】

論理学研究 1【新装版】

 
論理学研究 4【新装版】

論理学研究 4【新装版】

 
論理学研究 3【新装版】

論理学研究 3【新装版】

 
論理学研究 2【新装版】

論理学研究 2【新装版】

 

   

 ラテン語に関しても、『ニューエクスプレス』からラテン語が出ています。最初の文字の読み方、これは文字は一緒ですから、ギリシャ語と比べればすごく簡単です。

ニューエクスプレス ラテン語《CD付》

ニューエクスプレス ラテン語《CD付》

 

 

『経済学批判』や『純粋理性批判』など、いろいろなものに非難という言葉がついていますが、日本語の批判の否定的なニュアンスは、そこにはありません。  

経済学批判 (岩波文庫 白 125-0)

経済学批判 (岩波文庫 白 125-0)

 
純粋理性批判 上 (岩波文庫 青 625-3)

純粋理性批判 上 (岩波文庫 青 625-3)

 
純粋理性批判 下 (岩波文庫 青 625-5)

純粋理性批判 下 (岩波文庫 青 625-5)

 

 

 法演とは、この話をつくった『碧巌録』の評唱をつくった圜悟の師匠である五粗法演のことです。
碧巌録〈上〉 (岩波文庫)

碧巌録〈上〉 (岩波文庫)

 
碧巌録 (中) (岩波文庫)

碧巌録 (中) (岩波文庫)

 
碧巌録 (下) (岩波文庫)

碧巌録 (下) (岩波文庫)

 

 

 「時間論」に関しては、最近で中島義道さんが『時間論』といういい本を書いています。

時間論 (ちくま学芸文庫)

時間論 (ちくま学芸文庫)

 

 

 ところがアウグスティヌスの『告白』などを読むのは、世界像が違いますからすごく大変です。田辺はうまくまとめています。

告白 上 (岩波文庫 青 805-1)

告白 上 (岩波文庫 青 805-1)

 
アウグス ティヌス 告白 (下) (岩波文庫 青 805-2)

アウグス ティヌス 告白 (下) (岩波文庫 青 805-2)

 

 

種族という言葉を使うと、ダーウィンの『種の起源』やナチスドイツの人種主義の連関で考えてしまうので、種族という言葉を落としてしまいましょう。

種の起原〈上〉 (岩波文庫)

種の起原〈上〉 (岩波文庫)

 
種の起原〈下〉 (岩波文庫)

種の起原〈下〉 (岩波文庫)

 

 

その代わりモナドという言葉を置きましょう。これはライプニッツモナドの考え方です。

単子論 (岩波文庫 青 616-1)

単子論 (岩波文庫 青 616-1)

 

 

田辺は戦後になると、『キリスト教の弁証』という本を著しまして、キリスト教的な価値観を全面的に認めています。

キリスト教の弁証 (1948年)

キリスト教の弁証 (1948年)

 

 

 もう岩波書店からは絶版となっており、神保町の古本屋を歩くと50円ほどで出ています。

現代のヒューマニズム (1961年) (岩波新書)

現代のヒューマニズム (1961年) (岩波新書)

 

 

 師範学校を卒業すると、『二十四の瞳』のように地方の小学校の先生になってそこへ赴任しています。

二十四の瞳 (角川文庫)

二十四の瞳 (角川文庫)

 

 

 彼は「菅季治のこと」というエッセイを書いています。『務台理作著作集』の第6巻に収録されています。菅季治とは、東京文理科大で彼が教えた学生です。務台と同じようなキャリアを歩んだ優秀な学生でした。

務台理作著作集〈第6巻〉社会と実存

務台理作著作集〈第6巻〉社会と実存

 

 

ソクラテスの弁明・クリトン (岩波文庫)

ソクラテスの弁明・クリトン (岩波文庫)