池上彰, 佐藤優『新・リーダー論大格差時代のインテリジェンス』(文藝春秋)2016/10/20
- 池上彰との対談集。
- 同氏との対談本はほかに、『新・戦争論 僕らのインテリジェンスの磨き方』(文藝春秋、2014年)、『大世界史 現代を生きぬく最強の教科書』(文藝春秋、2015年)、『希望の資本論ー私たちは資本主義の限界にどう向き合うか』(朝日新聞出版、2015年)がある。
引用・参考文献
佐藤優氏との文春新書は、これが三冊目となりました。一冊目は二〇一四年秋。自称「イスラム国」の急激な勢力拡大を見ながら、現代の戦争について語り合いました。題して『新・戦争論』です。
二冊目は二〇一五年秋。欧州への大量の難民流入など現代のさまざまなニュースを世界史の観点で分析することの必要性を語りました。これが『大世界史』でした。
城山三郎の『毎日が日曜日』という小説で描かれているのは、総合商社の中堅社員が主人公で、結局はただの兵隊なんだと思い知らされるけれども、そこに諦めの気持ちもあり、また社長の方でも、その兵隊の価値をきちんと認めているようなリーダーシップの在り方です。末尾にこういう一節があります。
国民国家的な体制を取っているかぎり、戦争が起これば、金持ちの子供も、庶民の子供も、「平等」に「戦争」へ行かざるを得ない。また戦費を調達するために、累進課税制を取らざるを得ない。「戦争」になれば、いやでも「平等」になるわけです。ピケティの『21世紀の資本』から読み取れることです。
トランプが登場してきたアメリカ社会の文脈を理解する上で重要なのは、『光の子と闇の子』を一九四四年に出版したラインホールド・ニーバーだと思います。
古い本ですが、これは、C・W・ミルズが『パワー・エリート』(一九五六年)で次のように描いている統治構造の変化です。
教育の場でもこれだけ格差が拡がってしまうと、真ん中より下の階層は、どうせ勉強してもしようがない、という意識が芽生え、階層がさらに固定化していきます。イギリスの文化社会学者、ポール・ウィリスの『ハマータウンの野郎ども』(熊沢誠・山田潤訳、ちくま学芸文庫)で描かれている世界です。
- 作者: ポール・E.ウィリス,Paul E. Willis,熊沢誠,山田潤
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1996/09
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一秒間に一〇〇〇回前後もの頻度で株を取引する「超高速取引(HFT)」の問題ですね。こうした取引のトレーダーは、「フラッシュ・ボーイズ」(マイケル・ルイス『フラッシュ・ボーイズ──10億分の1秒の男たち』渡会圭子・東江一紀訳、文藝春秋)と呼ばれています。
先日亡くなったウンベルト・エーコの遺作『プラハの墓地』は、ユダヤ人嫌いの祖父に育てられた偽書作りの名手であるシモニーニが、いかにしてユダヤ迫害の原因となった偽書「シオン賢者の議定書」をつくり出し、世界に影響を与えたか、という小説ですが、シモニーニ以外の登場人物は、皆、実在の人物です。
自身もユダヤ系の祖先を持つエマニュエル・トッドも、『シャルリとは誰か?』(堀茂樹訳、文春新書)で、ヨーロッパでの反ユダヤ主義の広がりに懸念を表明しています。
- 作者: エマニュエルトッド,Emmanuel Todd,堀茂樹
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2010/01/20
- メディア: 新書
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ちなみにノーマン・コーン『ユダヤ人世界征服陰謀の神話 シオン賢者の議定書』(ダイナミックセラーズ)という「シオン賢者の議定書」に関する本は内田樹さんが訳していますね。彼は率直に言って日本の典型的なユダヤ陰謀論者です。
ユダヤ人世界征服陰謀の神話 シオン賢者の議定書(プロトコル)
- 作者: 内田樹,ノーマンコーン,Norman Rufus Colin Cohn,Norman Cohn
- 出版社/メーカー: ダイナミックセラーズ
- 発売日: 1991/03
- メディア: 単行本
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それにしてもミシェル・ウエルベックの『服従』、エーコの『プラハの墓地』、そしてトッドの『シャルリとは誰か?』を並べると、新自由主義による資本のグローバルな動きに反応して、人種や民族をめぐるキナ臭い要素がまた噴出してきているように思えてなりません。
それで、ある国会議員が言うには、「佐藤さんが『資本論』を参照して、貨幣というのは癌細胞と同じだ、市場にとどまってずっと死なない、と言っていましたが、確かにそうです。だから我々の政治の仕事は、貨幣を腐らせていくこと。つまり、それがインフレ政策です。しかしインフレにならず、デフレが起きた時には、コンソル公債のようなものを出して、中長期的には、インフレになるから、そのときに元本を返してしまえばいい」と。
実は、今回の訪問実現の背景には、元読売新聞の記者で、現在、広島テレビの社長を務める三山秀昭氏が、「被爆者は謝罪を求めない。とにかくぜひ来てください」という手紙をホワイトハウスへ何年にもわたり送り続けていた、ということもありました(三山秀昭『オバマへの手紙──ヒロシマ訪問秘録』文春新書)。
最近刊行された角栄論の中では、石井一の『冤罪』が最も優れていて、非 常に面白い本です。
チェコの作家、カレル・チャペックに『山椒魚戦争』という小説があります。スマトラで見つかった山椒魚が突然変異をして、急速に知性を身に付け、四桁の掛け算くらいなら簡単に暗算できるようになる。しかしLとRの発音がよく区別できない。それから長い言葉の発音が苦手。そして数学、工学、経済、軍事ばかりに関心を向けて、音楽、美術、文学などにはまったく関心を示さない。まさに新自由主義です。
- 作者: カレルチャペック,Karel Capek,栗栖継
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2003/06/13
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日本人が思い描くリーダーというのは、一昔前なら、『釣りバカ日誌』の社長のスーさんのようなイメージだったと思います。
(以上)