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佐藤優『帝国の時代をどう生きるか 知識を教養へ、教養を叡智へ』(角川書店)2012/04/10

  • ①『一冊の本』に連載の「Uさんへの手紙」2007年6月号〜2008年3月号と、②「週刊金融財政事情」に連載の「政界二万里」2011年7月4日号〜10月24日を加筆修正したものに、序章を書き加えて収録している。
  • ①は宇野弘蔵の「資本論」を10回に分けて解説、②は民主党政権時代に執筆されたもので、普天間移設、震災復興などの時評となっている。

  引用・参考文献

 1983年に浅田彰さんが 『構造と力 』(勁草書房 )を出した後 、私と同世代の知識人は 「ポストモダニズム 」の嵐に巻き込まれてしまいました 。
 同志社大学神学部という 、狭く 、しかも日本の知的文化の風土ではキリスト教神学などという特殊なテーマを扱う環境の中でも 『構造と力 』 、そして 「ポストモダニズム 」の力は強い影響を持ちました 。
構造と力―記号論を超えて

構造と力―記号論を超えて

 
 
 

 

 「それではお前は何を言いたいのだ 。知識人は啓蒙に従事するべきというのか 。そんなことをしてもアドルノやホルクハイマ ーが 『啓蒙の弁証法 』で解き明かしたように 、人間の暴力性を除去することはもとより 、制御することすらできない 」と言われると思います 。  
啓蒙の弁証法―哲学的断想 (岩波文庫)

啓蒙の弁証法―哲学的断想 (岩波文庫)

 

 

 偶像崇拝を避けるためには 、現下世界で最も強力な偶像である国家と貨幣がどのようにして人間によって作り出されてきたか 、そして 、それがどれだけ人間の思想と行動を縛りつけているかについての内在的論理を押さえなくてはなりません 。そのためにマルクスの言説 、特に 『資本論 』を読み解かなくてはならないと私は考えるのです 。

 時の経過とは恐ろしいもので 、大学生 、大学院生の時代に宇野経済学方法論の構成で魅力があった部分が 、現在の私にはもっとも色あせてみえるのです 。それは社会主義と経済学との関係についての宇野氏の言説についてです 。
 
 うんと乱暴な言い方をすると宇野弘蔵氏の 『資本論 』の読み方はキリスト教的で 、廣松渉氏の 『ドイツ ・イデオロギ ー 』の読み方は仏教的なのです 。
 『ドイツ ・イデオロギ ー 』の視座から 、廣松氏は 『資本論 』を読み解こうとしていますが 、率直に言って 、その試みは破産し 、スタ ーリン主義的なマルクス主義経済学者とほぼ同水準のところで低空飛行をしているというのが実態と思います 。
ドイツ・イデオロギー 新編輯版 (岩波文庫)

ドイツ・イデオロギー 新編輯版 (岩波文庫)

 
 

 

 新カント派について定義するとなるといろいろ面倒なのですが 、実験が可能な物理学 、化学などの自然科学分野における法則定立型の学問と歴史学のような個性記述型の学問を分けるという考え方です 。この点について 、廣松氏の以下の指摘は興味深いです 。
廣松渉著作集〈第4巻〉身心問題・表情論

廣松渉著作集〈第4巻〉身心問題・表情論

 
さて 、宇野氏にとって 、社会主義とは人間が究極的な自由を獲得することです 。ここに私はアナ ーキズムの影を見ます 。宇野氏は 、中学生時代にアナーキズムに触れています 。
私が見るところ 、宇野氏のアナ ーキズムに対する関心は相当強く 、大杉栄グル ープの会合にも出席しています 。
資本論五十年 上

資本論五十年 上

 
ハ ーバ ーマスの 『コミュニケイション的行為の理論 』 (未来社 )や網野善彦の 『無縁 ・公界 ・楽 』 (平凡社ライブラリ ー )はこの時期に読んだのですが 、猛暑の中での読書は記憶にとてもよく定着しました 。
コミュニケイション的行為の理論 上

コミュニケイション的行為の理論 上

コミュニケイション的行為の理論 下

コミュニケイション的行為の理論 下

コミュニケイション的行為の理論 中

コミュニケイション的行為の理論 中

 

 

 

無縁・公界・楽―日本中世の自由と平和 (平凡社ライブラリー (150))

無縁・公界・楽―日本中世の自由と平和 (平凡社ライブラリー (150))

増補 無縁・公界・楽 (平凡社ライブラリー)

増補 無縁・公界・楽 (平凡社ライブラリー)

 
確かに現在の日本には 、マルクスが 『共産党宣言 』の中で描いたような資本家対プロレタリア ート 、戦前の日本における寄生地主小作人というような階級対立は存在しない 。しかし 、社会層の間で確実に利害の対立が存在する 。
マルクス・エンゲルス 共産党宣言 (岩波文庫)

マルクス・エンゲルス 共産党宣言 (岩波文庫)

 

 

 

 

イギリスにおける労働者階級の状態―19世紀のロンドンとマンチェスター (上) (岩波文庫)

イギリスにおける労働者階級の状態―19世紀のロンドンとマンチェスター (上) (岩波文庫)

イギリスにおける労働者階級の状態―19世紀のロンドンとマンチェスター〈下〉 (岩波文庫)

イギリスにおける労働者階級の状態―19世紀のロンドンとマンチェスター〈下〉 (岩波文庫)

 
この本は21世紀の状況を踏まえた標準的な 『資本論 』入門書になると思います 。
マルクスの『資本論』 (名著誕生)

マルクスの『資本論』 (名著誕生)