佐藤優『現代の地政学』(晶文社)2016/07/23
- 本書は、晶文社とタイアップして池袋コミュニティ・カレッジで5回(2016年10月7日、11月4日、12月2日、2016年2月3日、3月2日)行われた連続講義の講義ノートと講義録をもとに再構成し収録。
引用・参考文献
最近、地政学の本がいろいろ出ています。古典的なものでは、中公新書の曽村保信さんの『地政学入門』や、H・J・マッキンダーの『マッキンダーの地政学』などがあります。
- 作者: ハルフォード・ジョンマッキンダー,Halford John Mackinder,曽村保信
- 出版社/メーカー: 原書房
- 発売日: 2008/09
- メディア: 単行本
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あとは、最近出た『第3次世界大戦の罠』という、東京大学名誉教授の山内昌之先生と私の対談書があります。これは地政学をかなり意識しながら話していますが、主に中東地政学の話だから、ちょっとメインストリームの地政学からは外れるところがあります。
それで私が二〇〇六年に『獄中記』という本を岩波書店から出したとき、柄谷行人さんが非常に注目してくださって、朝日新聞に書評を書いてくれたんです。彼は「恐ろしく道具立ての古いやつが出てきた」と言っています。要するに一九七〇年代までの道具しか使ってないということです。
1983年に浅田彰さんの『構造と力』が出た「浅田革命」以降の、いわゆるポストモダニズムの影響がすぽっと抜け落ちて、ものすごく古い道具立てで、ものごとを見て分析している。しかもこいつの考え方ってヘーゲルの精神現象学の考え方じゃないか。200年ぐらい前の装置を使って今の日本を見ている。だからおもしろい、という形で評価してくださったんだけれども、非常に鋭い見方だと思います。
ニューアカデミズムの考え方というのは、「大きな物語なんて意味がない、小さな差異を追いかけていかないといけない」というものです。浅田彰さんは『構造と力』のあと『逃走論』を出して、結局二冊しかまとまった本を出してないけれども、そのなかで、「シラケつつノリ、ノリつつシラケる。それで小さな差異の戯れをしていく」ということを言った。
その後、ドゥルーズとかデリダとかラカンなどがものすごく読まれるようになって、私たちの世代はそれに熱中したわけです。ところが私はそのころモスクワにいて、日本から持っていった『宇野弘蔵著作集』を読んだり、当時ソ連でようやく解禁になったベルジャーエフとか、セルゲイ・ブルガーコフとか、シュペットとか、そんなものを読んだりしていた。
副島さんと仕事をするには、まず関門となる質問をされるんです。それは「あなたは人類は月面に到達したと思っていますか?」という質問。彼は『人類の月面着陸は無かったろう論』というのを唱えていて、それで第一四回トンデモ本大賞を受賞しています。
最近、ディスカヴァー・トゥエンティワンから出ているベストセラーで、慶應義塾大学准教授の中室牧子さんという人の書いた『「学力」の経済学』という本がありますが、読んだことのある人はいますか? この本では、子どもが何歳ぐらいのとき教育にお金をかけると最も投資効果が高いか、というような、教育を完全に投資として見た分析を行っています。
たとえば、1930年代の終わりに河出書房から『廿世紀思想』という10冊のシリーズが出ていて、その中に全体主義という巻がある。このシリーズの編纂をしているのは三木清と恒藤恭、つまりリベラル派の人です。
その全体主義の巻を編集しているのは務台理作という、第二次世界大戦後 のヒューマニズム論の大家です。もちろんリベラル左派で、岩波文化人の中心になる人です。務台理作の『現代のヒューマニズム』という岩波新書の青版から出ている本は、これは今でもその有効性を失わない、非常に優れたヒューマニズム論です。彼が全体主義についての説明をしている。
皆さんは、マルコ・ポーロの『東方見聞録』は読んだことありますか? 子どものころ、絵本で読んだ人も多いと思いますが、『東方見聞録』には、日本についてどう書かれていましたか?
原作は小坂慶助という、高倉健が演じる憲兵曹長が書いた回想録です。これは私が文藝春秋の文春学藝ライブラリーというところから、『特高 二・二六事件秘史』として詳しい解説をつけてもう一回甦らせています。それを読んでもらうと、当時の二・二六の青年将校がいかにふざけた感じのスカスカな連中だったかがよくわかります。
グルジア語は一つの動詞が一万五〇〇〇ぐらい変化することになる。アディゲイ語になると一二億らしい。これは私が勝手に言ってるんじゃなくて、大修館書店から出ている、言語学者の千野栄一さんが書いた『プラハの古本屋』という本の、「コーカサス言語」のところから引いてきてる話です。三省堂から出ている『言語学大辞典』を見てもそうなっています。
(以下編集中)