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佐藤優『世界史の極意』(NHK出版)2015/01/08

世界史の極意 (NHK出版新書 451)

世界史の極意 (NHK出版新書 451)

 
世界史の極意 (NHK出版新書)

世界史の極意 (NHK出版新書)

 

引用・参考文献

 次のホブズボームの言葉を見ると、社会主義とナチズム、ファシズムの台頭によって、自由主義と民主主義がどれだけ窮地に立ったかがわかるはずです。

20世紀の歴史―極端な時代〈上巻〉

20世紀の歴史―極端な時代〈上巻〉

 
20世紀の歴史―極端な時代〈下巻〉

20世紀の歴史―極端な時代〈下巻〉

 

 

 ソ連崩壊の翌九二年、アメリカの政治学者フランシス・フクヤマは『歴史の終わり』のなかで、民主主義と自由経済主義の最終的な勝利を高らかに宣言しました。もしもフクヤマの言うとおりであれば、世界中が民主主義国となって、穏やかで平和な時代が訪れたはずです。
 でも、現実はまったく違いました。

歴史の終わり〈上〉歴史の「終点」に立つ最後の人間

歴史の終わり〈上〉歴史の「終点」に立つ最後の人間

 
歴史の終わり〈下〉「歴史の終わり」後の「新しい歴史」の始まり

歴史の終わり〈下〉「歴史の終わり」後の「新しい歴史」の始まり

 

 

 マルクスは『ルイ・ボナパルトブリュメール18日』で「歴史はかならず繰り返す。最初は悲劇として。そして次は、悲喜劇として」と語っていますが、「次」が悲喜劇である保証はありません。

ルイ・ボナパルトのブリュメール十八日 (岩波文庫 白 124-7)

ルイ・ボナパルトのブリュメール十八日 (岩波文庫 白 124-7)

 

 

 アナロジーを用いて語ることは、神学的思考の特徴でもあります。
 キリスト教神学者アリスター・E・マクグラスは、『キリスト教神学入門』のなかで、アナロジー(類比)とメタファー(隠喩)の違いを次のように説明しています。

キリスト教神学入門

キリスト教神学入門

 

 

 これまで私が歴史を読み解くうえで用いた方法論は、いったん歴史を類型化して、そのうえで具体性と実証性にこだわるという読み方でした。くだいて言うと、日本をはじめとする各国の文化に応じて世界史をタイプ分けし、それぞれの特性を探るという作業です。大川周明国家社会主義者の高畠素之、『国体の本義』などに関する著作や連載がその典型です。

国体の本義 (1937年)

国体の本義 (1937年)

 

 

 世界史のなかで「帝国主義の時代」は、一八七〇年代から第一次世界大戦まで。この時期、欧米列強が軍備を拡大させ、世界各地を自らの植民地や勢力圏として支配していきました。
 高校の歴史教科書『詳説 世界史』を見てみましょう。帝国主義については次のように説明されています。

 

 この自由主義から帝国主義への転換にあたって、資本主義には何が起きたのか。この変容を鋭く考察したのが、レーニン(1870-1924)の『帝国主義』です。

帝国主義―資本主義の最高の段階としての (岩波文庫 白 134-1)

帝国主義―資本主義の最高の段階としての (岩波文庫 白 134-1)

 

 

 マルクス主義者ですから、レーニンの議論も当然、マルクスの『資本論』を踏まえている。しかしマルクスの『資本論』とレーニンの『帝国主義』の間には、大きな違いがあることを見逃してはいけません。
 『資本論』で考察されるのは、国家が市場に干渉しない純粋な資本主義の世界です。それに対して、『帝国主義』では市場に介入する国家の機能が重視されているのです。

資本論 1 (岩波文庫 白 125-1)

資本論 1 (岩波文庫 白 125-1)

 

 

 では、これをアナロジカルにとらえ、現代の新・帝国主義においても世界戦争は不可避だと考えたほうがいいのでしょうか。
 先述したレーニンは、不可避だと考えます。しかし、レーニンの『帝国主義』の種本となっている、イギリスの経済学者ジョン・アトキンソン・ホブソン(一八五八─一九四〇)の『帝国主義論』では、一定の条件で戦争は回避できると書かれています。

帝国主義論 上巻 (岩波文庫 白 133-1)

帝国主義論 上巻 (岩波文庫 白 133-1)

 
帝国主義論 下巻 (岩波文庫 白 133-2)

帝国主義論 下巻 (岩波文庫 白 133-2)

 

 

 アンダーソンは一九三六年生まれ、イギリス出身のアメリカの政治学者。ゲルナーは一九二五年生まれ、プラハで育ちロンドン大学などで教鞭をとった社会人類学者、九五年に亡くなりました。そしてスミスは、一九三三年生まれのイギリスの社会学者です。
 三人のうち、日本で比較的よく知られているのは、アンダーソンでしょう。彼の名前は知らなくとも、代表作『想像の共同体』について聞いたことがある人もいるかもしれません。この本は、日本でもっともよく読まれているナショナリズム論です。

定本 想像の共同体―ナショナリズムの起源と流行 (社会科学の冒険 2-4)

定本 想像の共同体―ナショナリズムの起源と流行 (社会科学の冒険 2-4)

 

 

 次に紹介するアーネスト・ゲルナーも、道具主義の代表的な論客です。主著『民族とナショナリズム』は、『想像の共同体』と並ぶナショナリズム論の名著です。
 最初にこの本から、ゲルナーによるナショナリズムの定義を紹介しましょう。

民族とナショナリズム

民族とナショナリズム

 

 

 知識人ならざる多くの近代人には、民族がはるか昔から存在しているように感じられている。いったい、それはなぜなのか。
 彼は日本で、アンダーソンやゲルナーほどのポピュラリティは得ていませんが、その主著『ナショナリズムの生命力』『ネイションとエスニシティ』は画期的なナショナリズム論です。以下、この主著二冊に即して説明しましょう。
 このことを考えるうえで重要なのが、三人目の論客アントニー・D・スミスの議論です。

ナショナリズムの生命力

ナショナリズムの生命力

 

 

ネイションとエスニシティ―歴史社会学的考察―

ネイションとエスニシティ―歴史社会学的考察―

 

 

 私は、『宗教改革の物語』という本のなかで、ルターの宗教改革以前に活動した、チェコ宗教改革者フスの物語を描くことによって、エトニの問題を明らかにしようと考えました。

 

 カール・バルトは、第一次世界大戦に衝撃を受け、一九一九年に『ローマ書講解』を上梓しました。この本から神の場所が再転回したと言ってもいいでしょう。

ローマ書講解〈上〉 (平凡社ライブラリー)

ローマ書講解〈上〉 (平凡社ライブラリー)

 
ローマ書講解 (下) (平凡社ライブラリー (401))

ローマ書講解 (下) (平凡社ライブラリー (401))

 
ローマ書講解 (平凡社ライブラリー)

ローマ書講解 (平凡社ライブラリー)