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佐藤優『大国の掟 「歴史×地理」で解きほぐす』(NHK出版)2016/11/08

  • 高校の地理や世界史の教科書や、地政学の文献を引用しながら、 「歴史」と「地理」をキーワードに国際情勢を解説した一冊。
  • 同様のアプローチで執筆された『世界史の極意』(NHK出版、2015年)の続編的な内容となっている。
大国の掟―「歴史×地理」で解きほぐす (NHK出版新書 502)

大国の掟―「歴史×地理」で解きほぐす (NHK出版新書 502)

 

 引用・参考文献

 前著『世界史の極意』でも述べたように、歴史はアナロジー(類比)的なものの見方を訓練することに大いに役立ちます。
 アナロジー的な思考とは、類比性を見つけて考えること。この考え方を身につければ、未知の出来事に遭遇したときでも、過去の出来事との類比を考えて、冷静に分析ができる。過去の出来事との比較で現在を考えれば、現下国際情勢が過去に規定されていることが理解できるでしょう。先行きが見通しにくい時代であればあるほど、アナロジー的な思考は大きな力を発揮します。

世界史の極意 (NHK出版新書)

世界史の極意 (NHK出版新書)

 
世界史の極意 (NHK出版新書 451)

世界史の極意 (NHK出版新書 451)

 

 

 1994年に出版した『光の子と闇の子』によれば、ニーバーは、この世界は「光の子」と「闇の子」に分かれると考えます。欧米の民主主義者やソ連の集産主義者(共産主義者)は「光の子」で、ナチス・ドイツのヒトラーやファッショ・イタリアのムッソリーニが「闇の子」です。

光の子と闇の子―デモクラシーの批判と擁護

光の子と闇の子―デモクラシーの批判と擁護

 

 

 ナチズムとファシズムを打倒するためには、民主主義者と共産主義者が、互いの違いを認めつつ、連携すべきであるというのがニーバーの主張したことです。つまり、孤立主義を脱して、第二次世界大戦にアメリカが積極的に参戦していくことの理論的な裏づけをしたわけです。
 こうしたニーバーの思想は、第二次世界大戦後のアメリカ政治にも引き継がれていきます。一九五二年に書いた『アメリカ史のアイロニー』の中で、ニーバーは、共産主義者を「光の子」と考えたことを誤りとして、今度は、東西冷戦を正当化する理論を構築するのです。

アメリカ史のアイロニー

アメリカ史のアイロニー

 

 

 しかし、そもそもアメリカの建国者たちの多くは非平等的相続システムをもつプロテスタントのイギリス人たちですから、こうした平等主義の原則はなじまないはずです。この問題をトッドは次のように説明します。


 意識的なアメリカ的価値観の逆転の問題について論理的に満足すべき解答は一つしかない。すなわち一六五〇年から一七七六年までの間に、人間の差異という先験的な形而上学的確信は、次第に非ヨーロッパ系住民、インディアンと黒人の上に固着するようになった、ということである。こうしたインディアンないし黒人という差異への固着によって、白人のイングランド人の間の差異が消去され、部分的な平等主義イデオロギーの誕生が可能となったのである。(中略)独立宣言は、人間の平等を断定した上で、インディアンを情け容赦を知らぬ野蛮人(mercilesssavages)と定義し、暗に白人という観念と人間という観念を交換可能なものとみなしているのだ。(エマニュエル・トッド『移民の運命』石崎晴己・東松秀雄訳、79頁)

移民の運命 〔同化か隔離か〕

移民の運命 〔同化か隔離か〕

 

 

 イギリスの「光栄ある孤立」の立場を転換したきっかけとなったのが、一九〇二年の日英同盟でした。世界史の教科書では次のように説明されています。

 イギリスは長いあいだ、どの国とも同盟を結ばない「光栄ある孤立」の立場をとったが、東アジアにおけるロシアの進出に対抗して一九〇二年日本と同盟(日英同盟)を結び、ドイツの挑戦にそなえて〇四年フランスと英仏協商を成立させた。(前掲『詳説 世界史』、三二〇頁)

 

 地政学の分野で、海洋国家の特徴を論じた古典に、アメリカの海軍士官アルフレッド・T・マハンの『マハン海上権力史論』があります。一八九〇年に発表された同書は、過去の海洋戦略を詳細に解説しながら、アメリカが海洋覇権を握るために必要な戦略を考察するものでした。

マハン海上権力史論(新装版)

マハン海上権力史論(新装版)

 

 

 海洋国家は、海を通じてどこにでも行くことができる。この地理的条件は決定的に重要です。どこにでも行くことができるということは、行かないという選択肢も手に入れられるということです。
 したがって、海洋国家は大陸にかかわるかどうかの選択肢をもつことができる。そのことを的確に評した、ジョージ・フリードマン『新・100年予測』の中の一節を引用しましょう。フリードマンは、世界的インテリジェンス企業ストラトフォーを創設した著名な地政学アナリストです。

新・100年予測――ヨーロッパ炎上

新・100年予測――ヨーロッパ炎上

 

 

 生存圏とは何か。ヒトラーは『わが闘争』の中で、自身の外交政策を次のように説明しています。

 民族主義的国家の外交政策は、一方では国民の数およびその増加と他方では領土の大きさおよびその資源との間に健全で、生存可能であり、また自然的でもある関係を作り出すことにより、国家を通じて総括される人種の存在をこの遊星上で保証すべきものである。 この場合健全な関係というのはつねにただ一国民を自己の領土でもって確実に養うことのできる状態であると理解してよいだろう。(アドルフ・ヒトラー『わが闘争』下、平野一郎・将積茂訳、三四二頁)

わが闘争(上)―民族主義的世界観(角川文庫)

わが闘争(上)―民族主義的世界観(角川文庫)

 
わが闘争(下)―国家社会主義運動(角川文庫)

わが闘争(下)―国家社会主義運動(角川文庫)

 

 

 マッキンダーによれば、「ヨーロッパの文明と称するものは、とりもなおさずアジア民族の侵入にたいする、ごくありきたりの意味の戦いの産物にほかならなかった」(前掲『マッキンダー地政学』、255頁)。

マッキンダーの地政学―デモクラシーの理想と現実

マッキンダーの地政学―デモクラシーの理想と現実

 

 

 一見失敗したようであっても、それは神の試練であり、これに耐えれば必ず成功する」「世の中のため人のために努力すれば神は喜ぶ。自分の人生は神を喜ばせるためにある」という教えを信じています。そこに生じる禁欲的な職業倫理が強い経済に結びつくのです。
 プロテスタンティズムが資本主義を生んだことには、こうした背景があるというのが、マックス・ヴェーバーが『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』で主張したことでした。

 

 歴史的に見ると、中国はつねに「陸」の問題に悩まされ続けた国でした。 アメリカの地政学アナリスト、国際ジャーナリストであるロバート・D・カプランは、『地政学の逆襲』の中で、次のように指摘しています。
 中国にとっての脅威は過去数千年間、主に北方と北西に位置するユーラシアのステップ地帯からやってきた。(中略)そのため、中国先住民族満州人、モンゴル人、高地砂漠のテュルク民族[引用者注・トルコ民族]の相互作用が、中国史の主要なテーマの一つになっている。(ロバート・D・カプラン『地政学の逆襲』櫻井祐子訳、222頁)

地政学の逆襲 「影のCIA」が予測する覇権の世界地図

地政学の逆襲 「影のCIA」が予測する覇権の世界地図

 
地政学の逆襲 「影のCIA」が予測する覇権の世界地図

地政学の逆襲 「影のCIA」が予測する覇権の世界地図

 

 

 政治家・評論家の鶴見祐輔が一九三五年に著した『膨脹の日本』という本があります。鶴見祐輔は、哲学者の鶴見俊輔の父です。
 本の内容は、国家には収縮するサイクルと膨張するサイクルがあるというものです。日本は江戸時代の鎖国で収縮させられていた。収縮を強いられているとあるときに爆発が起き、今度は膨張サイクルに入る。一九三〇年代の日本は明治維新以降の膨張サイクルに入ったままだから、今後も行くところまで行く。こういう理屈を著した本ですが、その行きつく先は大東亜戦争でした。

膨脹の日本

膨脹の日本

 

 

 同様の発想で、仮に「米中衝突」が起こった場合、中国の将来シナリオを予測するとどうなるか。
 元外交官で豊富な外交経験を重ねてきた宮家邦彦は、著書『語られざる中国の結末』の中で、以下の七つの理論的可能性を挙げています。

語られざる中国の結末 (PHP新書)

語られざる中国の結末 (PHP新書)

 
語られざる中国の結末 (PHP新書)

語られざる中国の結末 (PHP新書)

 

 

 この鎖国体制が崩れるのが、一八五〇年代です。すでにそれ以前から、欧米諸国の船が琉球や日本に来航していましたが、いよいよ一八五三年にペリーが来ると、鎖国を続けることが難しくなりました。高校日本史の教科書では、次のように説明しています。
 アメリカは、メキシコとの戦争に勝ち、カリフォルニアを手に入れると、清との貿易のため太平洋を航海する船舶や、捕鯨船の寄港地として日本に開国を強く求めるようになった。一八五三(嘉永六)年、アメリカ東インド艦隊司令長官のペリーは軍艦(「黒船」)四隻を率いて浦賀に現われ、国書を提出して日本の開国を求めた。幕府はペリーの強い態度におされて国書を正式に受けとり、回答を翌年に約していったん日本を去らせた。ペリーに続いてロシアの使節プチャーチンも長崎にきて、開国と国境画定を要求した。(『日本史A』、二〇頁) 

 

 陸上自衛隊で初めてサイバー戦部隊の隊長を務めた経歴をもつ伊東寛は、「サイバー空間」こそが、陸、海、空、宇宙に続く「第5の戦場」であるという見立てのもと、二〇一二年に著書『「第5の戦場」サイバー戦の脅威』を刊行しました。私も伊東の見立てに同意します。この新しい戦場は、従来の地政学では捉えられない分野でしょう。

「第5の戦場」 サイバー戦の脅威(祥伝社新書266)

「第5の戦場」 サイバー戦の脅威(祥伝社新書266)

 

 (以上)

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